存在文・所有文・所在文
(1)机の上 に 辞書 がある。
(1’)田中さん には お孫さん がいる。
(2)貴重品 は 金庫の中 にある。
(1)のような文を「存在文」
(1’)のような文を「所有文」
(2)のような文を「所在文」ということがあります。
●(1)の「存在文」は存在の場所が文頭に来ます。
●(1’)の「所有文」は「存在文」の中に含めることも多いといえます。
なぜなら、構文が同じで、
「存在」を表すのが「存在文」
「所有」を表すのが「所有文」だからです。
(例1)教室にはキムさんがいる。(存在文)
(例1’)田中さんには娘がいる。(所有文)
存在文と所在文
存在文は
どこに何があるか、⇒ 場所「に」物「が」あります。
という意味で
所在文とは
特定のある物(主体)がどこにあるか、⇒ 主体「は」場所「に」あります。
という意味です。
そう説明されても・・・う~ん・・・
となりますよね。
もう少し、わかりやすく説明すると、
存在文の例
(例1)A:ねえ、見て見て!
あんなところに公衆電話がある。
・・・・B:ほんとうだ。
例1では、話し手が今時珍しい公衆電話を見つけたので、
Bさんにそのことを伝えています。
こういう時には、存在文を使うことが多いですね。
所在文の例
(例2)
A:Bさんはトムさんをよく知っていますよね。
B:ええ。ルームメイトですから。
A:この時間、トムさんはどこにいますか?
B:今、3時だから・・・たぶん
トムさんは○○カフェにいます。
存在文では
話し手が物や人を見つけて、
その物が「どこにあるか」
その人が「どこにいるか」を
聞き手に伝える時に使います。
所在文では
トムさんは
話し手と聞き手、
両者の話題(主題)となっています。
そこで、
所在文を使っています。
つまり、
<「存在文」を「主題化」したものが、「所在文」である>
と言えます。
机の上に辞書がある。(存在文)
主題化→辞書は机の上にある。(所在文)
存在を表す「ある」と「いる」
日本語では存在を表す場合、
感情を持っているか否かで、動詞を使い分けます。
有情のもの(人と動物)の存在を表すときには「いる」を
非情のもの(物や建物など)の存在を表すときには「ある」
を使います。植物も非情の方に分類します。
こうした使い分けは
英語、中国語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、
マレー語、インドネシア語・・・などにはありません。
日本語特有の表現とも言えます。
そこで、
授業をする際には
母語でこうした使い分けをしていない学習者もいることを
念頭におきましょう。
ただし、この使い分けは
学習者にとっては難しくありません。
所有文
「所有」というと、まず、頭には
「持っている」という動詞を思い浮かべるのではないでしょうか。
例えば
<(人)は (物) を持っている >
(例)田中さんは軽井沢に別荘を持っている。
「所有」と言えば、こちらの文の方が一般的かもしれません。
しかしながら、
<(人)は (物) がある >
(例)田中さんは軽井沢に別荘がある。
という言い方もできます。
ここでは、「~は ~がある」だけではなく、
様々な所有文を紹介していきます。
「所有文」のいろいろな言い方
「所有文」には
持っているものが、どんなものなのかによって、
いろいろな言い方ができます。
ここでは、所有しているものを
(1)人(2)才能…(3)身長…
(4)目…(5)その他
に分けて、見ていきます。
(1)<(人)には (人) がいる >
→持っているものが人の場合
(例)田中さんには孫が三人います。
この場合、「持っている」は使えません。
(×)田中さんは妻を持っています。
(2)<(人)には (才能)がある >
・・・<(人)は (才能)を持っている >
→(才能)のほかにも、
・・知恵、理性、情熱、熱意、センス…など、
・・人の抽象的な属性を表す多くの言葉につかえます。
(例)田中さんには 何事もやり遂げる情熱がある。
(例)田中さんは美に対するセンスを持っている。
(例)大谷翔平選手は たぐいまれなる才能を持っている。
(3)<(人)は (熱)がある。>
<(人)は (身長)が(数量詞)ある。>
→(熱)(身長)のほかにも、
体重、胸囲などの数字で表せる言葉が使えます。
(例)キムさんは 熱が(39度も)ある。
(例)田中さんは身長が170センチあります。
●熱は「あるかないか」を問題にすることが多く、
数量詞(39度)を言わない場合も多くあります。
平熱という基準値があるため、「熱がある」で、
「平熱以上の熱がある」という意味を表せるからです。
(4)<(人)は 修飾語+(目)をしている。>
→持っているものが
「目、耳、口、鼻、髪、羽、尾…」など
体についているものの場合です。この文を使う時には
どんなもの(目)をもっているのか、そのもの(目)を
修飾する言葉が必要です。
(例)アンさんは青い目をしている。
(例)キムさんは美しい髪をしている。
●動物などがこうした「特徴を持っている」と
表現するときには
<(動物)は 修飾語+(耳)を持っている。>
<(動物)には 修飾語+(鼻)がある。>
上記のように言った方が自然です。
(例)ゾウは大きい耳を持っています。
(例)ヘラジカには立派な角がある。
(5)<(人)は (物)を持っている。>
(例)田中さんはお金を持っている。
(例)田中さんは鎌倉に隠家を持っている。
●(物)を所有している場合には、
<(人)には(物)がある。>
のように、言える場合もあります。
(例)田中さんにはお金がある。
(例)田中さんには鎌倉に隠家がある。
補足1
(1)田中さんには息子が二人いる。
(2)田中さんには息子が二人ある。
●所有しているものが人(息子)であっても、まれに
(2)のように「ある」が使われていることもありますが、
現代ではほとんど使いません。
例えば
「むかしむかし、あるところに
おじいさんとおばあさんが ありました。」
という表現があります。
これは古語の「あり」を現代語である「ある」に
言い換えたものとも言われています。
古語の「あり」は「有情のもの」の存在にも、
「非情のもの」の存在にも使われていたので、
この「ありました」は「いました」と同じ意味である、
という説です。(尚、この例文は「存在文」です。)
補足2
(1)<(人)には (人) がいる >
→持っているものが人の場合
(例)林さんには孫が三人います。
(×)林さんは孫を三人持っています。
通常、所有しているものが人の場合、
「持っている」は使えません。
しかし、
以下の場合には「持っている」が使えます。
(例1)鈴木さんは 優秀な息子を持って、鼻が高い。
(例2)(×)鈴木さんは息子を持っています。
(例2)のような場合、「持っています」を使うと、不自然です。
(例1)では、
鈴木さんは どんな「人」を所有しているのか、
それによって、
鈴木さんは どんな気持ちなのか、
を述べています。
つまり、
①複文であること
②所有している人物を評価すること
(マイナスの評価でも大丈夫です)
この二点がある場合、「持っている」が使えるようです。
まとめ
「日本語ハンドブック」に、わかりやすい表がありましたので、
ここに記載しておきます。
人には ~がいる |
人には ~がある |
人は ~がある |
人は~を している |
人は~を 持っている |
|
人 | 〇 | △ | △ | × | × |
才能 | × | ◎ | 〇 | × | 〇 |
熱 | × | × | ◎ | × | × |
目 | × | △ | × | ◎ | 〇 |
それ以外 | × | 〇 | × | × | ◎ |
◎ : 最も典型的に 使われる
〇 : 使える
△ : 誤りではないが、あまり使われない。
× : 使えない
ではではニゴでした。