「ゴルフをおやりになる」は正しいか?

(例)

学 生:林教授はゴルフをおやりになるのですか?
林教授:(ムッ、こやつ敬語の使い方を知らないな・・・)

さて、上記の例で林教授は
どうして「ムッ」となってしまったのでしょうか。

この学生の作った文を
みなさんなら、どのように訂正しますか?
そして、
どのような解説が必要でしょうか?

学生の思い込み

学生は「おやりになる」で、
敬語を使ったと思いこんだのでしょう。

ところが・・・
この「おやりになる」が敬語としては
よくなかったのですね。

「おやりになる」がダメな理由と解説

学生が林教授に敬意を表したいとき、
どうすればいいのでしょうか。

「尊敬語」と「謙譲語」の違い

まず、
学生の頭の中では
「尊敬語」と「謙譲語」の
どちらを使ったらいいんだろう・・・
という問題が出てきます。

そこで、ちょっと復習。

「尊敬語」

敬意を表したい人物の動作を
敬語に変える形式です。
つまり、
ここでは林教授の動作です。

 

「謙譲語」

敬意を表したい人物に対して、
自分が何かをしてあげたいときに、
使う表現です。
謙譲語は
自分の動作を敬語の形式に変換します。

上記の事から、
この学生の例文には
「尊敬語」を使えばいいことがわかります。
そこで、ちょっと
「尊敬語」のおさらいです。

尊敬語の形式

尊敬語の表現形式は種々ありました。
もう一度確認したい方は
以下をクリックしてください。
↓↓↓
尊敬語

では、
尊敬語の代表的な形式を
二つ、見ていきます。
今回は動詞述語に限定しています。

<動詞述語を敬語に変える形式Ⅰ>

●お + 和語動詞連用形 + になる

例: 林教授が着きになりました

●ご + 漢語動作名詞 + になる

例: 林教授が到着になりました

 

※ただし、この形式は
「いる」「する」「来る」「見る」「着る」「寝る」
などの語数が2文字の動詞、

具体的に言うと
→「ます」:「ます形」にしたとき、1音節になります

こうした動詞には使えません。


<動詞述語を敬語に変える形式Ⅱ>

※この形式Ⅱは上記の形式Ⅰの表現に比べ、
敬意の度合いは低くなります。
(学生には、あまり勧めていません)

動詞に
「れる」「られる」をプラスする形式です。

●Ⅰグループの動詞 + 「れる」

例:田中さんは よく推理小説を読まれるそうですね。

●Ⅱグループの動詞 + 「られる」

例:田中さんは朝何時ごろ起きられるのですか?

●Ⅲグループの動詞:
来る→「来られる」
する→「される」

例:△「田中さんが来週のゴルフコンペに来られるのを、
皆が楽しみにしています」

例:〇?「田中さんはゴルフをされるのですね」

ここで注意したいのが
敬意を表す特別な動詞群です。
たとえば、

Ⅱグループの動詞「食べる」→「召し上がる」
Ⅲグループの動詞「来る」 →  「いらっしゃる」
        「する」→ 「なさる

「食べる」や「来る」「する」のように
敬意を表す特別な動詞を持つ言葉は
「れる」「られる」を使うのではなく、
「召し上がる」「いらっしゃる」「なさる」
を優先して使う方が
敬語の使い方としては美しいのです。

学生には
敬意を表す特別な動詞
を使うように指導しましょう。

例:△「田中さんが来週のゴルフコンペに来られるのを、
皆が楽しみにしています」

例:〇「田中さんが来週のゴルフコンペにいらっしゃるのを、
皆が楽しみにしています」

 

例:〇?「田中さんはゴルフをされるのですね」

例:〇「田中さんはゴルフをなさるのですね」

この記事の表題
<学生の間違い>

✖「林教授はゴルフをおやりになるのですか?」
も、下記のように訂正することができます。

〇?「林教授はゴルフをされるのですか?」

「林教授はゴルフをなさるのですか?

 

学習者には
敬意を表す特別の動詞(=「なさる」)
の方を教えます。

では、どうして
「れる」「られる」の形式を使わない方がいいのか、
これについて見ていきましょう。

どうして「食べられる」はだめなのか?

例:△「先生はドリアンを食べられるそうですね」

この文は
尊敬の形式なのか、可能の形式なのか、
状況がわからないと、文意がわかりにくくなっています。

例:〇「先生はドリアンを召し上がるそうですね」

「召し上がる」を使えば、
すぐに敬語の形式だとわかります。

どうして「来られる」は、わかりにくいのか?

例:△「田中先輩はミーティングに来られました

この文は
①田中先輩に敬意を表しているのか、
②田中先輩が「来ることができた」と可能を表しているのか、
③田中先輩は来てほしくない誰かに「来られてしまった」
という迷惑の受け身を表しているのか、

上記の例文だけでは
やはり、文意が取りにくいと感じます。

例:〇「田中先輩はミーティングにいらっしゃいました」

このように「いらっしゃる」を使えば、
すぐに敬意を表しているとわかります。

 

「れる」「られる」を学生に進めない理由

授業では
敬語の形式としての
「れる」「られる」を
(テキストに記載されている場合は)
一応、提示します。

しかしながら、
「れる」「られる」は
「受け身」や「可能」と同じ活用です。

敬語表現として使うと
誤解を招く恐れがあります。

また
「れる」「られる」は
<少しだけ丁寧に言おう>
と思ったときに使う敬語の形式です。
かなり日常語に近いものです。

つまり、
<この方に敬意を表したい>
と思った場合には
「れる」「られる」では
敬意の度合いが足りません。
そして、
相手に失礼な感じを与えない、
という配慮にも欠けます。

日本語を母語としていない学生にとって
こうした違いを学ぶことは
荷が重すぎると言えます。

日本語が母語の日本人でさえも
この表現を使った間違いが
非常に多く見られます。

以上の事から、日本語学習者に
こうした表現を
詳しく教える必要はないと考えます。

これで

学 生:林教授はゴルフをおやりになるのですか?

の正解は林教授はゴルフをなさるのですか?
であるとわかりました。

正解は上記の通りですが、
学生にどうして「やる」という動詞を
使ってはいけないのか、という説明も必要です。

どうして「やる」を敬語化してはいけないのか?

敬語とは相手を敬う表現です。
ですから、
「盗む」「殺す」といった
人を傷つける言葉には使えません。

また、
「はげる」「ボケる」「見せびらかす」といった
負の意味を持つ言葉も(特別の場合を除いて)
敬語化できません。

田中さんは ボケになってしまったそうですよ。

「やる」という動詞は
どうでしょうか。

「やる」という動詞には様々な使い方があります。

一般の辞書の中にも

する:一般的に丁寧
やる:口語的。ややぞんざい

 

という記載があります。

はげる」という負のイメージを持つ動詞が

✖田中さんは すっかり、はげになっていましたよ。

ふつう敬語化できないように、

やる」という動詞も、敬語化できません
つまり、
表題の学生の文

✖「林教授はゴルフをやりになる

は、適切な敬語とは言えません。

 

学生の文を
どう訂正し、解説するかは
学生のレベルや勉学に対する考え方などを
考慮して決めていきます。

一人一人、全く違うと言えます。
この一案の中に
役立つ箇所があることを願っています。

 

ではではニゴでした。

 

 

 

 

 

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