複合格助詞「~に対して」(その4)
複合格助詞「~に対して」の意味 (2)対比
複合格助詞「~に対して」は ざっくり分けると
二つの意味がありました。(1)対象 (2)対比
ここでは(2)対比を見ていきます。
対比とは、
(前件)A ~に対して、 (後件)B ~ 。
前件Aと後件B、二つの文がどんな関係にあるかを表します。
前件Aと後件Bとを比べる、対比する、という意味になります。
対比は意味と形から、さらに二つに分けられます。
①対比 ②割合
複合格助詞「~に対して」の意味 (2)-①対比
(例)父は非常に厳格な性格なのに対して、母はとても温和だ。
(例)日本人の平均寿命は
男性が78歳であるのに対して、女性は85歳です。
(例)部長はノー残業デーを積極的に勧めているのに対して、
一般社員は、かなり消極的だ。
(例)A社の冷凍食品は 値段も手ごろでおいしいのに対して、
B社の方は高いうえに味もよくない。
*「~のに対して」を使って、
二つの事柄が、どのように違っているかを比べています。
複合格助詞「~に対して」の意味 (2)-②割合
(例)このスパゲティは水1リットルに対して、塩10グラムを入れると、
おいしく仕上がります。
「(2)-②割合」は、上記の例のように、
「名詞1(水1リットル)に対して、名詞2(塩10グラム)」の形で、
二つの事柄、名詞1と名詞2が
どのような割合になっているのかを、示しています。
実験結果を述べるときには、よく名詞に数値が用いられます。
(例)このドレッシングは
オリーブ油100ccに対して、酢50ccの割合で作ります。
(例)この市では
子供一人に対して、一か月2万円の扶養補助が出ます。
2.注意すべき語彙①
「~に対して」は、
動作や感情が向けられる対象を表します。
(1)その毛虫に触ると、肌がかぶれますよ。
(2)Tは彼女のほほにそっとキスをすると、耳もとで囁いた。
上記のように「さわる」「ふれる」「キスする」・・・といった語彙は、
格助詞「に」を使います。
複合格助詞「~に対して」は使えません。
(×)その毛虫に対して、触ると、肌がかぶれますよ。
(×)Tは彼女のほほに対して、そっとキスをすると、耳もとで囁いた。
(1)の毛虫は触る対象であり、
(2)のほほもキスする対象と考えられます。
それなのに、どうして
動作の対象を表す「~に対して」が使えないのでしょうか。
格助詞「に」には、多くの意味があります。
その中で「対象」も表します。
しかしながら、
格助詞「に」の最も根本的な意味は、
「接触点」や「到達点」です。
「毛虫に触る」は、直接その毛虫に手を伸ばし、触っています。
「ほほにキスする」も、唇がほほに到達し、直接触っています。
対象とも考えられるのですが、また、
「接触点」や「到達点」とも、考えられます。
「さわる」や「キスする」といった言葉は、
「接触点」や「到達点」の方を想起しやすい語です。
そこで、
対象を表す「~に対して」は使えないと考えられます。
2.注意すべき語彙②
格助詞「を」との比較
(〇)あの温厚な田中さんが彼をなぐったのには、理由があるはずだ。
(×)あの温厚な田中さんが彼に対してなぐったのには、理由があるはずだ。
「~に対して」は、
動作や感情が向けられる対象を表します。
「Aさんをなぐる」という文の
「なぐる」という動作が向けられる対象は「Aさん」です。
つまり、
「を」は動作が向けられる対象を表しています。
それなのに、「~に対して」は使えません。
どうしてなのでしょうか。
(〇)あの温厚な田中さんが
彼に対してなぐりかかったのには、理由があるはずだ。
上記のように「なぐる」ではなく、「なぐりかかる」を使うと、
「~に対して」が使えます。
他の「を」格を使う動詞で考えてみます。
・コーヒーを飲む。 ・パンを食べる。
「を」格を使うと、
「コーヒーそのものを飲み、パンそのものを食べる。」
ということを表します。
言葉では説明しにくいので、
「を」格と「~に対して」を
イメージ図にしてみます。
「を」格は対象Pへの直接性が際立つというか、対象そのものです。
それに比べ「~に対して」は
対象と離れた所から、その対象に向かう、ということを強調しています。
・Pをなぐる。
・Pに対して、なぐりかかる。
の違いは、上記の図で表せます。
また、
・子供を愛する心は、誰もが持っている。
「愛する」という動詞は、「を」格を使って、
心的態度の向かう対象を表している、と言えそうです。
「尊敬する」「軽蔑する」「差別する」「除名する」・・・
といった動詞も、同様です。
こうした動詞で「~に対して」を使う場合には、
以下のように変える必要があります。
(1)子供を愛する。
→子供に対して、愛情を注ぐ。
(2)田中先生を尊敬している。
→田中先生に対して、尊敬の念を抱いている。
(3)移民を差別する。
→移民に対して、差別的態度をとる。
例文(1)(2)(3)の「を」格と「~に対して」を使う時の意味の違いも、
イメージ図を見るとと、わかりやすいと思います。
*もう一度複合格助詞「~に対して」(その1)を
ご覧になりたい方は、以下をクリックしてください。
https://www.tomojuku.com/blog/nitaishite/
*もう一度複合格助詞「~に対して」(その2)を
ご覧になりたい方は、以下をクリックしてください。
https://www.tomojuku.com/blog/nitaishite2/
*もう一度複合格助詞「~に対して」(その3)を
ご覧になりたい方は、以下をクリックしてください。
https://www.tomojuku.com/blog/nitaishite3/
ではではニゴでした。