複合格助詞「~に対して」(その2)
複合格助詞「~に対して」(その1)では、
「~に対して」の成り立ちと、大まかな意味
を見てきました。
複合格助詞「~に対して」の意味
(1)対象(2)対比
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今回は、
その意味をもう少し細かく、具体的に考えていきます。
複合格助詞「~に対して」の意味 (1)対象
「~に対して」とは、
動作や感情が向けられる対象を表しています。
つまり、「~に対して」は、
「対象を表している言葉はこれです。~に対しての前の言葉です」
と、はっきり指し示す役割を担っています。
ここでは
その「対象」の意味を さらに細かく四つに分けます。
「~に対して」とは
(1)行為が向けられる対象を表す
(2)行為を受けて反応する対象を表す
(3)感情・心的態度の向けられる対象を表す
(4)効果が出る対象を表す
以下では、この四つについて、一つ一つ見ていきます。
複合格助詞「~に対して」の意味
(1)行為が向けられる対象を表す
(例)田中課長は、本社で待機している部下に対して、
「GO」サインのメールを送った。
→「~に対して」はメールの送り先である対象(者)を表します。
(メールを送るという行為は、誰に向けて行われたのかと言うと、
部下の方(対象者)です。)
もう少し例文をあげておきます。
(1)トランプ大統領は国民に対して、アメリカ・ファーストに徹すると約束した。
(2)鈴木さんは どんな上司に対しても、はっきりと自分の意見を述べます。
(3)私たちは会社が新しく決めた制度に対して、大きな期待を寄せています。
*ここで、「~に対して」と結びつく述語は、
一方向的な働きかけをしている述語です。
つまり、
トランプ大統領がら国民へ、という一方向で、
トランプ大統領が国民に約束するという、働きかけをしています。
*ここでの
「~に対して」は、格助詞「に」で、言い換えることができます。
格助詞「に」ではなく、
どうして複合格助詞「~に対して」の方を使うのか、
その理由を見ていきましょう。
理由は、四つ考えられます。
(1)(2)(3)(4)
この四つの理由も、互いに関連しあっています。
理由(1)
「~に対して」は書き言葉で使われる
理由(2)
「~に対して」は格助詞「に」に比べ、対象をはっきり示すことができる
理由(3)
「~に対して」と述語の距離が離れている
理由(4)
「~に対して」の文中に、格助詞「に」も使われている
それでは「に」ではなく、
どうして「~に対して」の方を使うのか、
理由(1)~(4)を詳しく見ていきましょう。
理由(1)
複合格助詞「~に対して」は書き言葉で使われます。
「~に対して」が話し言葉で使われるのは、
あらたまった場所やスピーチの中などです。
話し言葉の中で使われる「~に対して」
「~に対して」の前にくる名詞(ここではパワハラ)、
「~に対して」と結びつく述語(ここでは抗議する)、
「~に対して」と一緒に使われる名詞、述語は、
その場にふさわしい、状況に合った語彙が選ばれます。
つまり、
話し言葉の中であっても、フォーマルな感じを出すときには、
書き言葉的要素の強い語彙、
硬い感じの語彙が選ばれます。
理由(2)
複合格助詞「~に対して」は
格助詞「に」に比べ、対象をはっきりと指し示すことができます。
(例)日本サッカー協会は西野朗氏に対して日本代表監督就任を願い出た。
(例)の文では
対象者が「西野朗氏」と、はっきりしています。
誰に願い出るのかという、
「行為が向けられる対象(者)」を明確に示したいとき、
複合格助詞「~に対して」を使います。
格助詞「に」は
「対象を表す」以外にも多くの意味をもつので、
格助詞「に」を使うと
意味があいまいになりやすいと言えます。
例えば
(1)田中さんは 子供にやさしい。
(2)田中さんは 家に引きこもっている子供に対して、やさしい。
(2)の文にも、格助詞「に」が使えます。
しかし、(2)の文は
やさしいの対象が、とてもはっきりしています。
(対象=引きこもっている子供)
こういう時には、「~に対して」を使った方がしっくりきます。
(3)審判は A選手にレッドカードを与えた。
(4)審判は ベッカム選手に対して、レッドカードを与えた。
どうして、(4)の場合は、格助詞「に」ではなく、
複合格助詞「~に対して」を使ったのでしょうか。
この発話者は心の中で、こう思っていたのかもしれません。
「今まで一度もレッドカードを受けたことのない
あの、ベッカム選手に対して!」と。
(例文が古臭くてすみません。)
A選手やB選手ではなく、まさに、
「ベッカム選手に対して」と、対象をはっきり示したいときに、
「~に対して」を使います。
理由(3)
複合格助詞「~に対して」と述語との距離が離れている
(例)日本に対して、
アメリカは牛肉とオレンジの関税を
現行の40%から10%まで引き下げるよう求めてきた。
この文の中には
対象を示す「~に対して」と、
その対象との関係を表す述語とがあります。
対象を示す「~に対して」と、述語との距離が離れている場合、
「~に対して」の代わりに格助詞「に」を使ってしまうと、
文の意味があいまいになってしまいます。
つまり、
対象を表す「日本」と、述語「求めるてくる」との間に、
多くの言葉が入り込んでいます。
こうした文では
対象を表す格助詞「~に」を使ったのでは、
意味が分かりにくくなります。
そこで、
こういう時には、複合格助詞「~に対して」を使います。
理由(4)
複合格助詞「~に対して」が使われている文中に、格助詞「に」もある。
〇(例1)医者は病人に対して、薬を処方する前に、その薬の効用と、
生じる可能性のある副作用とを知らせるべきである。
(例1)では、
複合格助詞「~に対して」と格助詞「に」が使われています。
△(例2)医者は病人に、薬を処方する前に、その薬の効用と、
生じる可能性のある副作用とを知らせるべきである。
(例2)では
格助詞「に」を連続して使っています。
文中に、助詞「に」が複数表れると、
それぞれの助詞「に」の意味が分かりにくくなります。
また、形としても美しくありません。
こうした時には、(例1)のように複合格助詞「~に対して」を使い、
格助詞「に」を連続させないようにします。
複合格助詞「~に対して」(その2)はここまでとします。
(その3)では、「~に対して」の意味・対象の(2)からです。
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ではではニゴでした。