複合格助詞「~に対して」その3
複合格助詞「~に対して」(その2)では、
以下の1.2.を見てきました。
1.複合格助詞「~に対して」の意味
(1)~(4)のうちの(1)について述べました。
(1)行為が向けられる対象を表す
→「~に対して」とは、
動作や感情が向けられる対象を表しています。
つまり、
「~に対して」が
「対象を表している言葉はこれです。」
「~に対しての前の言葉が対象です。」
と、はっきり指し示す役割を担っています。
2.格助詞「に」ではなく、複合格助詞「~に対して」を使う理由
*複合格助詞「~に対して」(その2)を
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ここからは、その続き(その3)を述べていきます。
複合格助詞「~に対して」の意味
(2)行為を受けて、それに反応する対象を表す
複合格助詞「~に対して」の意味の一番目
<(1)行為が向けられる対象を表す>では
「~に対して」と結びつく述語は、
一方向的な働きかけをする述語でした。
(1)の例→トランプ大統領は
国民に対して、アメリカ・ファーストに徹すると約束した。
つまり、トランプ大統領は国民に対し、一方向的に約束しました。
それに対し、2番目(2)の意味では
まず、相手からの行為を受け、その受けた行為に対して、
「応える」「反応する」「対応する」・・・・・・という述語がきます。
例文を示すと、
①イチロー選手は記者の質問に対して、丁寧に答えた。
②優勝パレードでは
メダリストたちが観客の声援に対して、手を振って応えていた。
③これはパワハラにあたるので、被害者に対して、謝罪した方がいい。
①の例では、記者に質問されて、それに答えています。
②の例では、観客から声援を送られたので、
それに応えて、手を振っています。
③の例では、パワハラをしてしまったのだから、
それに対して謝罪すべきだと言っています。
行為が向けられる対象を表す(1)は、一方向の作用(行為)のみですが、
上記の例のように(2)は、
行為を受けてそれに応える対象を表すので、
作用・反作用の関係になります。
また(2)は、(1)と同様に、格助詞「に」も使えます。が、
フォーマルな雰囲気を出したい、硬い文体にしたい、
対象をはっきりさせたい、などという時は
「~に対して」を使います。
以下は
<複合格助詞「~に対して」>
のイメージ図です。
複合格助詞「~に対して」は
意味(1)(2)を見てわかるとおり、一緒に使う述語に
方向性・反作用性があります。
このイメージ図は、
対象Pから少し離れた所で、対象と向き合う形で、
対象をとらえている様子です。
図の矢印(⇐)が
述語に方向性があることを示しています。
複合格助詞「~に対して」は
対象を受け手として、対象に向かって
何らかの働きかけをする、心理的作用を及ぼす、
という意図があるときに使います。
そして、
動詞「対する」の意味を色濃く持っています。
そのため、
「反抗する」「抗議する」「反発する」「抵抗する」・・・といった
相手との対立関係を表す語と、共起しやすいと言えます。
相手との対立関係を示す動詞は、
明確な対象、つまり相手が必要です。
そこで、こうした語に格助詞「に」を使うと、
動詞の意味がぼやけてしまいます。
対立関係をはっきり示すためにも、その場合は
複合格助詞「~に対して」を使います。
①人々は政府の不当な要求に対して、強く抗議した。
②子供が親に対して口答えをするなんて、もってのほかだ。
③若者は軍事政権の締め付けに対して、激しく抵抗した。
④ホワイトハッカーは、
ウイルスの侵入に対して、昼夜を問わず闘い続けた。
複合格助詞「~に対して」の意味
(3)感情、心的態度の向けられる対象を表す
<~(対象)に対して、感情が生じる、何らかの態度をとる>
*(3)の意味は対象に対して、感情が生じたり、何らかの態度をとります。
感情が生じたり、態度を取ったりできるのは、人です。
そこで、
注1⇒この文の主体には、
人、あるいは人と同じ意味を表す団体、組織等がきます。
注2⇒述語には、
感情を表したり、その感情を表す態度をとるといった、
形容詞、動詞がきます。
①鈴木氏は実の父親でありながら、長男に対して、非常に冷淡だった。
→「~に対して」は冷淡な態度をとっている対象(相手)を指し示しています。
(冷淡な態度をとるという行為は、
誰に向けて行われたのかと言うと、長男です。)
→注1のとおり、主体は人である鈴木氏です。
②田中先生は不真面目な学生に対して、かなり厳しい。
③ホーキング博士は子供のころから宇宙に対して、強い関心を持っていた。
④野党はF氏の責任を追及することに対して、非常に積極的だ。
*「~に対して」と同じように、格助詞「に」も
感情・(心的)態度の向けられる対象を表します。
*しかし、複合格助詞「~に対して」は
格助詞「に」に、動詞「対する」の意味が加わっています。
そこで、
相手(あるいは対象物)が、
「に」のときよりも際立ち、
その相手(あるいは対象物)に対して、
「こういった感情をもっている」
「だから、こうした心的態度をとるんだ」
と、より強い意味を持たせることができます。
他にも複合格助詞「~に対して」と一緒に使われる述語には
「消極的だ」「やさしい」「つめたい」「批判的だ」「熱心だ」「親切だ」
「細かい」「同情的だ」「効果的だ」「申し訳ない」・・・などがあります。
複合格助詞「~に対して」の意味
(4)効果がある対象を表す
<~(対象)に対して、効果がある>
*複合格助詞「~に対して」の意味(4)の場合、
その文の主題は意志のない物事です。
「有効だ」「無効だ」「強い」「弱い」などの述語と結びつき、
主題の特徴を表します。
①このワクチンは新型ウイルスに対して、効果があると思われます。
→「~に対して」はワクチンの効果が出ている対象物を表しています。
(主題であるワクチンが効いている病原菌が何かと言うと、
新型ウイルスです。)
②コンクリート建築は
地震に対して弱く、木材を使った建築こそが、日本に適している。
③この学習方法は集中力がない学生に対して、有効だ。
①②③の文の主題は人ではありません。
①はワクチン、②はコンクリート建築、③は学習方法です。
また、①の述語「効果がある」は、ワクチンの効き目を
②の述語「弱い」は、コンクリート建築の特性を
③の述語「有効だ」は、学習方法の効力を表しています。
①②③のように主題が事物で、
その事物の特性(効果)を表す文は、
複合格助詞「~に対して」を使います。
⇒今回は、ここまでとします。
複合格助詞「~に対して」(その4)に続きます。
●もう一度複合格助詞「~に対して」(その1)を
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●複合格助詞(その2)
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ではではニゴでした。