御:「お」と「ご」(その2)
前回は
御(お・ご)が、
どんな言葉につくかを見ました。
それから
美化語としての御(お・ご)の
様々な機能についても考えました。
今回は
御(お・ご)と
尊敬語・謙譲語との関係について
述べていきます。
まず
敬語にはどのような表現があるのか
分類を確認します。
<敬語の分類>
敬語の 3分類 |
敬語の 5分類 |
機 能 |
尊敬語 | 尊敬語 | 話題の人物への敬意を示す |
謙譲語 | 謙譲語 | |
丁重語 | 話し手の品格を保持する | |
丁寧語 | 美化語 | |
丁寧語 | 話し手・場面への配慮を示す |
*以前、敬語は3つに分けて考えていましたが、
あまり合理的でないため、今は5分類で考えます。
この分類表で見ると、
前回は主に
美化語の
御(お・ご)についての
説明だったことが分かります。
前回の御(お・ご)について、ご覧になりたい方は
以下をクリックしてください。
前回は
美化語と御(お・ご)の関係について
述べたと書きましたが、
敬語の分類表を見て、
「丁寧語と美化語ってどう違うの?」
と、思われた方もいると思います。
そこで
丁寧語と美化語の違いを
少し補足しておきます。
丁寧語と美化語の違い
敬語が3分類から5分類になった時に、
丁寧語が、
丁寧語と美化語に分かれました。
これにより、
美化語と丁寧語の区別が
明確になったと言えます。
*ざっくりと説明します。
美化語
美化語とは
敬語に準じてはいるのですが、
人への敬意を表す表現ではありません。
美化語とは
美しい言葉遣いをすることで、
自分自身の品位を示します。
例えば、
●「うまい」に対する「おいしい」
●「腹がへる」に対する「おなかがすく」
●「酒」に対する「お酒」
●「褒美」に対する「ご褒美」などです。
これを見てわかるように、
美化語と御(お・ご)は
関係が深いと言えます。
次に丁寧語です。
丁寧語
私たちは
改まった冠婚葬祭の場では
その場に配慮して、
丁寧な言葉を使います。
丁寧語とは
こうした場面への配慮を示す言葉です。
述語に使われる「です」「ます」が
代表的なものです。
詳しく知りたい方は以下をクリックしてください。
→丁寧語・美化語
では
丁寧語と美化語の区別がついたところで、
いよいよ敬語の本丸、「尊敬語と謙譲語」。
この表現と御(お・ご)との関係を
見ていきます。
まずは
尊敬語と御(お・ご)との関係からです。
尊敬語と御(お・ご)との関係
尊敬語とは
動詞・形容詞(イ形容詞・ナ形容詞)・名詞の
形を変化させて、相手に敬意を表します。
以下の例文は、述語の形を変えて、
先生に敬意を表しています。
●動詞:書く→お書きになる
例1)これは先生がお書きになりました。
●イ形容詞:忙しい→お忙しい
例2)先生、お忙しそうですね。
●ナ形容詞:元気→お元気
例3)先生、お元気ですか?
●名詞:病気→ご病気
例4)先生はご病気です。
次に
名詞文の尊敬語について、
少し深堀りします。
名詞文と尊敬語
名詞文の尊敬語の例、
例)先生はご病気です。
をみると、
名詞文は名詞に
御(お・ご)をつけて、
尊敬語にしていることが分かります。
ここで問題になるのは
どの名詞でも
名詞の前に
「御(お)か御(ご)」をつければ
尊敬語になる、
とはいかないことです。
御(お・ご)は
全ての名詞に
使えるわけではありません。
その名詞の意味によって、
御(お・ご)が
つけられるものと
つけられないものとがあります。
つまり、
語彙的な制限があります。
名詞文の尊敬語は
話題の人の持ち物や
その人に関するものを
高めることによって、
<つまり
名詞に御(お・ご)をつける
ことによって>
相手への敬意を表します。
こうした働きのできる名詞にだけ
使われるのです。
ここで、
尊敬語になれる、
名詞の例を挙げます。
「御(お)+名詞」
お話、お店、お宅、お名前、
お荷物、お引越し、お知らせ
「御(ご)+名詞」
ご住所、ご卒業、ご到着、
ご研究、ご家族、ご意見
御(お・ご)は
相手のものに
敬意を払っていると
直感的にわかる名詞につきます。
謙譲語と御(お・ご)との関係
尊敬語は
「敬意を表したい人の行為を
尊敬語の形にします」
とてもシンプルな方法です。
名詞も「敬意を表したい人の物に
御(お・ご)をつければOKでした。
ところが、
「私は田中先生を案内しました」
という文に
尊敬語が使えるでしょうか?
考えてみてください。
・・・
・・・
・・・
どうでしょうか?
この文の「案内します」は
敬意を表したい
田中先生の行為ではなく、
自分自身の行為です。
そこで、
尊敬語は使えません。
相手の行為がない文では
自分の行為を
謙譲語の形にすることで、
相手に敬意を表すのです。
●「案内します」(自分の行為)
「ご+~します」→「ご案内します」
(私は)田中先生をご案内しました。
名詞の謙譲語
謙譲語とは
話し手が相手に対して、
控えめな態度をとることによって、
相手に敬意を示す表現です。
名詞でも
その名詞が敬意を表したい人と
関わっているものなら、
御(お・ご)をつけて、
謙譲語にすることができます。
例:
●(お客様への)ご礼状
●(お客様への)ご説明
名詞の「尊敬語」の問題点
名詞の尊敬語と謙譲語は
形が同じです。
【尊敬語の例】
①(先生からいただいた)お手紙
【謙譲語の例】
②(私が先生に差し上げた)お手紙
同じ「お手紙」ですが、
①は尊敬語で②は謙譲語となります。
さらに
「さあ、みなさん。今日は大好きな友達に
お手紙をかきましょう」
という文になると
この「お手紙」は美化語となります。
このように「お手紙」は文により、
①尊敬語 にも
②謙譲語 にも
➂美化語 にもなります。
そこで
名詞文の、
名詞に御(お・ご)をつけた形は
文章になっていないため、その名詞が
①尊敬語なのか、
②謙譲語なのか、
➂美化語なのかの
判別がしにくい場合があり、
「ん? これは
御(お・ご)をつけてもいいのかな?」
という疑問が生じます。
例えば
「依頼」です。
これは御(お・ご)その1で
メールの件名の
「セミナーの依頼」と
「セミナーのご依頼」では
どちらがよりふさわしいのか、
といった話題に触れました。
まさに、これが
尊敬語の御(お・ご)なのか、
謙譲語の御(お・ご)なのかに
当たります。
例えば
(私が)田中先生に
セミナーをご依頼いたしました。
この文なら、
「お・ご+~いたします」の
謙譲語の形式を用いているので、
ご依頼は謙譲語であると
すぐにわかります。
ところが、
「ご依頼」単独となると
「自分の行為にお・ごをつけていいのですか?」
という疑問が出てきてしまうのです。
わかりやすく言うと
相手が「召し上がります」
はいいけれど、
私が「召し上がります」
は、言わないのでは?
ということです。
【次に別の例を挙げます】
銀行から次の件名のメールが
来たとします。
「ATMのご利用について」
ATMを利用するのは
銀行ではなくて、
お客様です。
この件名だと
利用するのはお客様の方だと
すぐに理解できるため
「ご利用」で、
何の問題もありません。
【もう一つ例を挙げます】
学生から先生へ
「ご相談」という件名の
メールが来たとします。
これも何の違和感もありません。
なぜなら、
これは相談という語の
元の意味によります。
相談という語は
「目下の人が目上の人に行う」
というイメージを
強く持っている言葉です。
そこで、「ご」をつけても、
これは謙譲表現だと
ピンとくるわけです。
少し整理してみます。
●「ATMのご利用」のように
誰がATMを利用するのかが、
はっきりとしている場合は
尊敬語と謙譲語の
区別が明解なので、
御(お・ご)をつけても
誤解は生じません。
●また、相談、案内といった語は
目下の人が使うという
印象が強い言葉なので
やはり御(お・ご)をつけても、
何の問題もありません。
では
依頼といった自分の行為を表す言葉は
どうしたらいいでしょうか。
(依頼は自分のためにする行為とも言えるので、
相手が目の前にいる場合は、謙譲語にもしにくい語です)
一つには
潔く「依頼」という言葉を使わず、
別の語を使うという方法があります。
例えば
「セミナーのご依頼」ではなく、
「セミナーのお願い」
に変えてしまいます。
「お願い」のような
やわらかい言葉にすると、
誤解もされず、
好感度も上がります。
【結論】
名詞だけを使う場合、
この言葉は
「相手に対して敬意を表している」
と直感的にわかる語なら
問題はないのですが、
「どうかなあ・・・?」と、
ふっと疑問がよぎった場合は
別の言葉に置き換えると、
誤解が起こりにくいと思います。
そして「お願い」のような
和語を使うと、
やさしい印象になり、
好感度も上がります。
前回の御(お・ご)について、ご覧になりたい方は
以下をクリックしてください。
ではではニゴでした。