「お疲れ様」と「ご苦労様」その1
「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分け
学生からメールが届きました。
「先生、今日の授業、お疲れさまでした。・・・・・」
このメールを読んで
みなさんはどんな感想を持ちますか?
(1)から(3)の中で
当てはまるものがあるでしょうか。
(1)これでOK。
(2)違和感がある。
(3)失礼に感じる。
「お疲れ様」「ご苦労様」は
性別、年齢別、地域別、職種別によって
使われ方に
ばらつきのある言葉です。
つまり、
個人差が大きいと言えます。
そこでまず、
学生とかかわりが深くなると
予想される、
ビジネスの世界では
どう扱っているのかを調べてみました。
ビジネス上の「お疲れ様」と「ご苦労様」
ビジネス講師として活躍している友人に
「お疲れ様」と「ご苦労様」を
どう教えているのか、尋ねてみました。
ビジネス上の「お疲れ様」と「ご苦労様」の使い分け
ご苦労様です(でした)
⇒目上の人から目下の人に使う言葉。
目上の人が目下の人をねぎらうときに使う。
お疲れ様です(でした)
⇒相手の立場にかかわらず、使える言葉。
一般的なビジネスマナーとしては
目下の人から目上の人に使っても差し支えない。
ビジネスマナーとしては
上記のように指導する、とのことでした。
では、どうして
こういう使い分けが
なされるようになったのか、
その経緯について見ていきます。
「お疲れ様」と「ご苦労様」使い分けの変遷
社会言語学が専門の倉持益子氏が
これに関して
研究なさっています。
氏は
昭和初期から2010年までの
マナー本200冊をもとに
「お疲れ様」と「ご苦労様」の
使われ方の変化を調査しました。
その結果は以下の通りです。
1970年代
⇒「ご苦労様」は部下へのねぎらいの言葉である。
こうした記述が現れ始めます。
1980年代
⇒「ご苦労様」は部下へのねぎらいの言葉である。
こうした記述が増加していきます。
1990年代
⇒上司には「ご苦労様」より「お疲れ様」がふさわしい。
このように言われ始めます。
2000年代
⇒「ご苦労様」は目上には失礼である。
こうした言われ方が普及していきます。
どうして
上記のように
「お疲れ様」と「ご苦労様」を
使い分けするようになったのか
様々な説があり、はっきりしていません。が、
実際は
このように変化していったことが
わかります。
また、
「お疲れ様」と「ご苦労様」に関して
文化庁が
興味深い調査をしています。
仕事が終わった時どのような言葉をかけますか?
文化庁は2005年度に
「国語に関する世論調査」を行いました。
⇒「仕事が終わった時
どのような言葉をかけますか」
というものです。
会社で仕事を一緒にした人に対して
仕事が終わった時に
何という言葉をかけるのか
自分より職階が上の人の場合と
自分より職階が下の人の場合について
尋ねました。
方法:個別面接
全国16歳以上の男女に対して
総 数 3652人
有効回答 2107人
(1)一緒に働いている人が
自分より職階が上の人の場合
お疲れ様です(でした)・・・・69.2%
ご苦労様です(でした)・・・・15.1%
ありがとうございました・・・・11.0%
どうも ・・・・ 0.9%
何も言わない ・・・・ 0.6%
(2)一緒に働いている人が
自分より職階が下の人の場合
お疲れ様です(でした)・・・・53.4%
ご苦労様です(でした)・・・・36.1%
ありがとうございました・・・・ 5.0%
どうも ・・・・ 2.8%
何も言わない ・・・・ 0.5%
「仕事が終わった時に
何という言葉をかけるのか」
という質問に対し、
人によって
思い浮かべるシーンが違ってしまう
という可能性があります。
もう、帰る時なのか、
それとも
一仕事終わった時なのか、
という具合に。
しかしながら
「お疲れ様」と「ご苦労様」を
どう使い分けているのかの
大方の目安にはなります。
結果として
自分より目上の人には
「お疲れ様です(でした)」を
69.2%の人が使っています。
自分より目下の人にも
「お疲れ様です(でした)」を
53.4%の人が使っています。
目上の人には7割近くの人が
「お疲れ様」を使い、
目下の人にも半分以上の人が
「お疲れ様」を使っている。
この数字の意味するところは
~「ご苦労様」は目上には失礼である~
という考え方が定着しつつあり、
「お疲れ様」を使う方が無難だ
ということの表れかもしれません。
辞書を調べてみると
以下のようになっていました。
辞書の中での「お疲れ様」と「ご苦労様」
明鏡国語辞典(2002年度版)
ご苦労様
⇒相手の骨折りをねぎらって、丁寧に言う言葉。
(例文)遅くまで、ご苦労様でした。
(注)目上の人に対しては
「お疲れ様」を使う方が自然。
ただし
明鏡国語辞典では
「お疲れ様」の項目はありませんでした。
その他の辞書でも調べましたが、
ほとんどが
「ご苦労様」で項目を立て、
「お疲れ様」では項目を立てていない
ということがわかりました。
そして
日本語大辞典を調べてみると、
驚くべきことが書かれていました。
「お疲れ様」は方言だった!
日本語大辞典(2004年度版)
お疲れ様
⇒地方のあいさつの言葉
(1)夕方から夜にかけてのあいさつの言葉。
=こんばんは。(群馬、新潟、長野、高知、山梨、愛媛)
上記のような記載がありました。
つまり
「ご苦労様」という言葉は
相手をねぎらう言葉として
古くから存在していましたが、
(次回、これについては触れます)
「お疲れ様」という共通語は
なかったということになります。
道理で辞書では
「お疲れ様」という言葉を使った
項目を立てないわけです。
「お疲れ様」は
地方で、あいさつの言葉として
使われていたのです。
では、どうして
「お疲れ様」と「ご苦労様」が
目上と目下で使い分けるべき言葉
となったのか、
次回で探っていきたいと思います。
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ではではニゴでした。