シラバス(syllabus)
シラバスとシラバス・デザイン
シラバスとは
学習項目、あるいは教授項目の一覧表のことです。
シラバスを作成する作業を
シラバス・デザイン(syllabus design)と言います。
教師は学習者のニーズに応じて
授業を変えていきます。
使うシラバスも
学習者の目的や
何を学びたいのか、
などの要望に応じて
適切な選択が必要です。
では、
どういったシラバスがあるのか、
主だったものを紹介します。
シラバスの種類
主なシラバスとしては
●構造シラバス
●機能シラバス
●場面シラバス
●タスク・シラバス
●技能(スキル)シラバス
●話題(トピック)シラバス
●Can-doシラバス
●折衷シラバス
などがあります。
「これがシラバスかあ・・・」
「このように羅列されても
。。。わからないなあ・・・」
そう感じるのは当然です。
そこで、
わかりやすくするために、
シラバスを
他のものに例えて説明してみます。
シラバスを他のもので例えてみると・・・
例えば、料理の本を考えてください。
本屋さんに行くと
様々な切り口で分類された料理本が
並んでいます。
国別に分類された料理の本
日本料理・フランス料理・イタリア料理・・・
材料別に分類された料理の本
魚料理・肉料理・野菜料理・・・
調理法別に分類された料理の本
圧力なべを使う料理・オーブン料理・電子レンジを使う料理・・・
食べる人別に分類された料理の本
ダイエット中の人への料理・高血圧の人への料理・離乳食・・・
他にも
いろいろな切り口で
分類された本があります。
料理を作る人別とか、某レストランのレシピとか・・・
料理を教えてと言われたら?
もし、
友人が
料理上手のあなたに
「料理を教えてほしいんだけど・・・」
と、声をかけてきたら、
何と答えますか。
おそらく
「いいですよ。
でも、どんな料理がいいの?」
と、
具体的に何料理を教えてほしいのか、
聞き直しますよね。
そして、
その友人の求めるものに
適した料理を
教えてあげるのではないでしょうか。
日本語を教える時も
それと同じです。
どうしてシラバスに注目するのか?
個人的に外国の方から
「日本語を教えてください」
と言われたら、
「どんな日本語を学びたいのか」
必ず尋ねますよね。
そして、
その方の求めている日本語に
「一番合った教科書はどれかなあ」
と、
探すのではないでしょうか。
もし、あなたが
プロの日本語教師なら、
まずは
ニーズ調査やレディネス調査から
始めるのと同じです。
それから
その調査結果を見て、
どのシラバスを使ったらいいのかを
考えますよね。
基本は
料理を教える時と
あまり変わらないのです。
「日本料理を教えてください」
と言われたら、
まずは、
「日本料理の本」を見ますよね。
フランス料理の本を
選択しないのと同じです。
このように
日本語を教える時には
学習者の目的に合った
シラバスを使っているテキストを
選ぶことが大切です。
その方が
学習者も、教師も
楽しく、効果的に
授業が進められます。
では、
どんなシラバスがあるのか、
もう少し詳しく見ていきましょう。
様々なシラバス
では、
以下のシラバスについて
解説していきます。
1.構造(文法・文型)シラバス
2.場面シラバス
3. 機能シラバス
4. 技能(スキル)シラバス
5.Can-doシラバス
6.課題(タスク)シラバス
1.(1)構造(文法)シラバス
これは
最も伝統的なシラバスの一つです。
教える項目を
文法の観点から
分類し、整理したものです。
例えば
●「主語・述語・助詞・動詞・名詞・形容詞・・・」
といった切り口で並べる
●「現在形・未来系・過去形・受身形・使役形・活用・・・」
といった切り口で並べる
といった具合です。
この分類法を見るとわかるように、
このシラバスは
「文法の指導」に
重点を置いています。
1.(2)構造(文型)シラバス
文型シラバスは
日本語の文型を
「やさしい型から難しい型へ」
と配列し、
学習項目を
体系的に学んでもらいたいときに
使うシラバスです。
例えば
「~は~です」
「~は~じゃありません」
「それは~です」
などの文型が並びます。
文型シラバスは
日本語の「文型の習得」に
重きを置いています。
文型シラバスは
文法シラバスと同じように
やさしいと思われる文型から
難しい文型へと並べられており、
日本語を体系的に学ぶことができます。
文法シラバス・文型シラバス
利点と弱点
利点
このシラバスを使うと
日本語を体系的に学べます。
授業も
「やさしい項目から、だんだんと難しく」
のように、進めることができます。
日本語を学ぶ時間が
ある程度とれる学習者には
適しているでしょう。
弱点
しかしながら、
学習の焦点は
「文法・文型」です。
そこで、
学習者にとっては
「今必要な表現」を
一体いつになったら学べるのか、
わからない・・・といった
デメリットがあります。
また、
「よく使われる日本語から学ぶ」
といった使用頻度とは全く関係なく、
おそらく
学習者にとってやさしいだろうと思われる
「易→難」の順序で
文法・文型が
並べられています。
ですから
日本語で最も使われている
「敬語」や
反対に
日常、友達と話すときに使う
「話し言葉」でも、
学習者にとっては
「難しいだろう」という理由で、
後回しになってしまう、
といった現象が起こります。
そのうえ、
「これはあまり使わないなあ」
と思われる表現でも、
文法・体系を学ぶには必要だから
という理由で、
かなり早い段階で学ぶ、
ということもあります。
また、
場面シラバスと違って、
言葉の背景知識が
なかなか学べません。
→これは「シラバスその2」の
場面シラバスの個所を参照してみてください。
シラバス・その2
構造シラバスに対する学習者の感想
構造(文法・文型)シラバスは
文法・文型が体系的に学べるので、
日本語を知識として学びたいと思っている
学習者にとっては
とてもいいテキストだと思います。
また、
先生と一緒に勉強した後なら、
テキストを使って、自分一人で
復習もできるでしょう。
しかし、
日本で生活している学習者の立場からすると
「日常生活で
周りの日本人が使っている日本語を
いつになっても話せるようにならない」
そのうえ、
周りの日本人が
毎日、話している日本語なのに
テキストに全然出てこない。
「いつになったら勉強できるんだ!?」
といった
じれったさを感じることになります。
反対に
テキストに載っている
ある表現については
「この表現、
日本の人は一体いつ、どこで使っているの?
聞いたことないんだけれど・・・」
といった感想も
漏らすようになります。
これは
「文法・文型」を理解することが大切だ、
としているシラバスなので、
「自然な日本語」
「生きた日本語」に
焦点が当たっていないからです。
今の時代(2022年)では、
「どうして、
こうしたテキストが生まれたのかしら」
と思われる方も
いらっしゃるかもしれません。
それは
このシラバスを用いたテキストの
誕生した時代と関係があります。
文法シラバス・文型シラバス
が誕生した時代背景
「言語習得」に関する考え方は
時代とともに変化しています。
このテキストが生まれた時代は
構造言語学の全盛時でした。
つまり、
「言語というものは
文法規則で構成されている」
「言語習得には
言語構造や体系を学ぶことが重要である」
とする考え方が
「うん、そうだよね」と
思われていた時代だったのです。
言語習得には
まずは
文法・文型を学ぶことこそ大切で、
それから
実生活の日本語へと応用していけばいい、
という考え方が主流でした。
今の言語習得に対する考え方と
かなり隔たりがあったのです。
「文法シラバス・文型シラバス」
テキストの使い方
こうしたテキストを使っていると
「文法・文型は知っているけれど、
それを
いつ、どんな状況で使っていいのかわからない」
という問題が起こりやすくなります。
ですから
「文法・文型シラバスの弱点」
で述べたようなことを
補いながら授業をしていくことが大切です。
どんなシラバスにも
いい所と問題な所があります。
教師が
それを知っていれば、
いい点を利用しながら、
問題点を補っていくことができます。
最近誕生しているテキストは
単一シラバスの欠点を補うため、
複数のシラバスを使っているものが
多く見受けられます。
教師は
「テキスト」を
そのまま使って教えるのではなく、
その「テキスト」を利用して、
その「テキスト」の欠点を
カバーしながら教えていく、
こうした姿勢が
大切になってきます。
続き
場面シラバス・機能シラバス
について
⇒シラバス・その2
ではではニゴでした。