シラバス(syllabus)その2
シラバスとは
学習項目、あるいは
教授項目の一覧表のことです。
「シラバス」という語、
あまり、耳慣れない言葉ですよね。
前回(「シラバス」その1)では
シラバスの全体像を
料理の本を例に出して説明してみました。
ちょっと復習してみると・・・
前回の復習
料理の本と一口に言っても
色々な切り口の本があります。
フレンチ、イタリアン、和食・・・
のように、
国別、地域別で分類したもの。
肉料理、魚料理、豆料理・・・
のように、
素材別で分類したもの。
これと同じで、
日本語のテキストも
様々な切り口で分類されているのです。
そのテキストの分類方法が
シラバスを見ると、わかります。
「和食を作りたいんですが、
・・・教えてくれませんか?」
と言われたときに、
フレンチの本を使うことは
ありえないですよね。
これと同じように、
「日本語を教えてください」
と言われたら、
まず、
「どんな日本語を学びたいのですか?」と
尋ねます。(→ニーズ調査)
その人の
学びたい事や学ぶ目的などがわかれば、
その人に
よりマッチしたテキストを探し出せます。
その学習者にとって
どんなテキストが最適なのか、
よりよいテキストを選ぶために、
「シラバス」の知識が
とても役に立つのです。
そのうえ、
それぞれのシラバスの
「強み」「弱み」を
知っていれば、
授業で、弱い部分を補うことができます。
学習者の希望に沿った授業、
学習者も、教師も、楽しいと思える授業を
するためには、
非常に役立つ知識だと言えます。
前回は
構造シラバスの中の
文法シラバス・文型シラバス
について、説明しました。
※前回の(「シラバス」その1)を
ご覧になりたい方は
以下をクリックしてください。
→シラバス・その1
今回は「場面シラバス」から始めます。
場面シラバス
場面シラバスとは
学習者が
コミュニケーションを行う必要性が高い
場面や状況を
集めて作ったシラバスです。
例えば
テキストの目次には
「郵便局」「市役所」「レストラン」・・・
などの項目が、並びます。
今日が「食事をしに行く」の回だとしたら、
その内容は
●ファミリーレストラン
●居酒屋
●ハンバーガー店・・・
など、
日本人がよく利用する様々な食事処の
具体的な場面が
記載されているでしょう。
この「様々な食事をする店」のレッスンで
使う表現や語彙は
例えば、
「ラーメン屋さん」なら、
その店に入り、注文し、食べ、支払いを済ませ、
店を出るまでの間に必要な
表現や語彙が載っています。
ただし、
テキストには
様々な形態の食事処で使う
「表現」や「語彙」が載ってはいます。
載ってはいますが、
実際問題として、
そのテキストの
表現や語彙だけを学んでも
十分とは言えません。
学習者にとっては
レストランに関する背景知識が
必要になってきます。
例えば、
●「何時から何時まで開いているのか?」
●「何曜日が休みなのか?」
以上のことは、全国共通か、
それぞれの店で違うのか・・・
●「チップは必要か?」
●「カードが使えるのか?」・・・
●「いつ食事代を払うのか?」
●「どうやって店の人に声をかけるのか?」
などといった情報・知識です。
こうした文化・生活習慣に基づいた
背景知識、
これは言葉を学ぶ上で
非常に大切なポイントです。
場面シラバスを使うと
こうした知識も
教えやすいと言えます。
それに比べ、前回述べた
構造(文法・文型)シラバスでは
こうした目に見えない
文脈や背景知識を教えることが
難しくなります。
場面シラバスで扱う
こうした奥深い内容を
初級初期の段階で
学ぶのは少し
難しいかもしれません。
しかしながら、
「時間がない学習者」
「日本で生活していくために、
どうしても
こうした具体的なことを学びたい」
と思っている学習者にとっては
非常に役に立つシラバスです。
また、
「サバイバルジャパニーズ」
という言葉を聞いたことがあると思います。
これは
まさに、この場面シラバスを使い、
今必要な日本語を
短期間に学ぶためのものです。
短い時間で、
学習者が必要とする表現を学べるので、
日本語が
とても上手になったような気持ちになれます。
日本語が全く話せない学習者にも
この「サバイバルジャパニーズ」は
適しています。
ただ、このシラバスでは
日本語を体系的に学んだり、
「易→難」へと
学びを段階的に進めたり
することは
かなり困難だと言えます。
場面シラバスの利点と問題点
場面シラバスは
学習者が
実際に出会う可能性の高い状況、
よく使うだろうと思われる場面から、
学習を始めることができます。
そこで、
短期集中的に学べます。
学習者が必要としている場面・状況は
一人ひとり異なっているでしょう。
この場面シラバスを使えば、
テキストの順番通りに学ぶのではなく
その学習者にとって
使用頻度が高いと思われる項目から
学ぶことも可能です。
日本の生活習慣や文化も
楽しく、実践的に学べます。
こうした点から
日本で生活している学習者の中でも、
「日常生活をもっとスムーズに送りたい」
と感じていたり、
「日本人ともっと実践的な話がしてみたい」
と思っている人には
とても向いているシラバスです。
また、
日本文化を体験することを目的に
2~3週間来日(短期留学)する
高校生や大学生に対して
よく使われています。
また、
今は自分の国に住んでいるけれど、
将来は
「日本を旅行してみたい」
「日本へ留学してみたい」と
希望している人にも
とても便利なシラバスです。
テキストによっては
かなり自然な日本語、生きた日本語、
生活習慣や文化なども
学習可能です。
問題点としては
●文法・文型を体系的に学べない
また、
具体的・実際的な場面や状況ごとに、
その場面だけに必要な表現や語彙、
背景知識を学ぶので、
●習った文型や表現を
他の場面で応用する能力がつきにくい
といった問題点があります。
次は
「機能シラバス」
について説明します。
機能シラバス
ここでいう「機能」とは
「誘う」「謝る」「許可を求める」・・・
などの目的を
言葉を使って達成する
ということを指しています。
前回の「シラバス・その1」で学んだ
文型シラバスや文法シラバスと比較してみると
わかりやすいかもしれません。
文型・文法シラバスは
文の「形」に注目して、
整理・分類されていました。
今回学ぶ
機能シラバスは
文の「形」ではなく、
文全体の持つ「機能」や「意味」で
分類・整理されています。
例えば
仕事中、
隣の席に座っている同僚から、
「そこに赤いペンがありますか?」
と、聞かれたら、
私たちはどう反応するでしょうか。
おそらく、
目の前のペン立てに
赤ペンがあれば、
「ありますよ。どうぞ」
と言って、
渡してあげるのではないでしょうか。
私たちが
「そこに赤いペンがありますか?」
と言われた時、
なぜペンを渡すのか、
それは
この状況では
「赤いペンがありますか?」の文が
「依頼だ」と判断したからです。
この「そこに赤いペンがありますか?」は
文法的に見れば「存在文」です。
しかしながら、
「機能」の面から見れば、
この状況では「依頼」となるのです。
もう一つ例を挙げると
「コーヒーを飲みませんか」は
文法的には
(つまり、文の「形」に注目すると)
「他動詞の否定疑問文」ですが、
機能の面から見ると、
「誘う」と考えられます。
上記の「赤ペン」や「コーヒー」の
例のように
文や表現を
機能の面から分類したものが
機能シラバスです。
機能シラバスで編集された
テキストの目次には
「依頼する」
「断る」
「許可する」
といった項目が並びます。
機能シラバスは
社会生活における、実際の
言語の「使われ方」「働き」に
重きを置いています。
そこで
それぞれの課を学習すると、
その「機能」を果たすための
最適な表現が学べます。
「赤いペンがありますか?」が
機能面から見ると、
一つの「依頼表現」である、
と、学べるのです。
機能シラバスの利点と問題点
このシラバスは
学習者が必要としている表現を
実践的に学ぶことができます。
「暑いので、窓を開けてください」
という直接的な依頼から、
「暑いですねえ」と言って
間接的に窓を開けてもらう依頼、
「ちょっと、窓開けて」
といったくだけた依頼から、
「恐れ入りますが、
窓を開けてくださいませんか」
といった丁寧な依頼まで、
状況に応じての
様々な表現の使い分け、なども
学べるのです。
多少、日本語に覚えのある学習者なら
「こうした表現方法があるのか!」
と、ワクワクするかもしれませんね。
しかしながら、
この機能シラバスは
場面シラバスと同様に、
難易度に関わらず導入されます。
また、
「断る」の課なら、
一度に様々な断る表現を学ぶので、
消化しきれるかどうか・・・
といった問題があります。
機能シラバスは
(他のシラバスに比べ)
学習者が好むかどうか、
といった点も考慮した方がよく、
初級向きではないシラバスだと言えます。
また、
文型を体系的に学びたい人にも
向いていません。
少し長くなってしまいました。
今回は
ここまでとしますね。
●前回の記事を読みたい方は
以下をクリックしてください。
シラバス・その1
シラバスの概観と、
構造(文法・文型)シラバスについて
→シラバス・その1
ではではニゴでした。