「テンス」その5
今回は学習者がよく戸惑ってしまう
「~とき」の同時関係について見ていきます。
その前に「テンス」を最初から見たい方は
以下をクリックしてください。
→「テンス」その4
今回は
単文、複文のテンス
の復習から入ります。
単文のテンス
A:きのう、やっと○○のお店に行ったよ。
B:そうなんだ。ぼくは あした行くよ。
単文は
テンスを考える時
今現在話している時点を基準とします。
下の図を見てください。
AさんとBさんが
話しています。
単文の場合は
この話している時点(発話時)が
基準点となります。
過去(=きのう)のことを
話しているのであれば
タ形(=行った)を用い、
未来(=あした)のことを
話しているのであれば
ル形(=行く)を用います。
こうした単文の
「ル形」と「タ形」の
用い方を「絶対テンス」と言います。
この場合
学習者が躓く点はありません。
「きのう」なら「タ形」を使い、
「あした」なら「ル形」を使う、と言う
とてもシンプルな原則を
理解すればいいだけです。
問題は複文のテンスです。
複文のテンス
1.「~前に」
2.「~あとで」
3.「~とき」
単文は
シンプルでわかりやすいのですが、
複文となると、
「主節」と「従属節」
との2文になるので、ちょっとやっかいです。
まず、「~前に」から
見ていきましょう。
1.~前に
(例1)寝る前に、歯をみがきました。
・・・/(従属節) (主節)
複文の場合
主節は絶対テンスです。
従属節は
主節の動作を基準点として、
従属節の動作が、
それよりあと(=未来)の場合には
ル形を用い、
それより前(=過去)の場合には
タ形を用います。
そこで、
従属節は相対テンスとなります。
(例1)寝る前に、歯をみがきました。
///////(従属節) (主節)
(例1)で言うと従属節の「寝る」は
基準点である主節の動作「歯を磨く」より、
あと(=未来)にすることですから、
ル形(=寝る)を用います。
しかしながら、
「~前に」「~あとで」は
こうしたテンスの仕組みを
教える必要は全くありません。
以下の例文を見てください。
(例2)ご飯を食べる前に、手を洗う。
(例3)ご飯を食べる前に、手を洗った。
この例を見ると
主節がル形(=洗う)であろうと、
タ形(=洗った)であろうと、
従属節の動作は常にル形(=食べる)です。
そこで
学習者には
「~る前に」(=ル形 + 前に)
という一塊の表現として教えます。
「~あとで」も同様のことが言えます。
2.~たあとで
「~る前に」と同じように
「~たあとで」についても見ていきます。
(例1)ランチを食べた後で、紅茶を飲む(=ル形)
(例2)ランチを食べた後で、紅茶を飲んだ(=タ形)
例文を見ると一目瞭然で、
「~たあとで」も
主節の動作がル形(=飲む)であろうと、
タ形(=飲んだ)であろうと、
従属節の動作は常に
「タ形」(=食べた)です。
そこで、学習者には
「~たあとで」(=タ形 + あとで)
という一塊の表現として教えます。
「~る前に」は「ル形 + 前に」
「~たあとで」は「タ形 + あとで」
と、覚えられるので
とてもやさしいと言えます。
問題となるのは「~とき」です。
3.~とき
例文を見てください。
(例1)パリに行くとき、(成田で)ガイドブックを買う。
(例2)パリに行くとき、(成田で)ガイドブックを買った。
(例3)パリに行ったとき、(パリで)ガイドブックを買う。
(例4)パリに行ったとき、(パリで)ガイドブックを買った。
「~とき」は上記の例文のように
4パターンが考えられます。
一見、法則性がないように見えますが、
従属節の動作が
「ル形」になるか、「タ形」になるかは
テンスの法則によっています。
つまり、
「~とき」表現では
従属節のテンスは、
主節の動作を基準として、
その前(過去)にしたことなら、「タ形」、
そのあと(未来)のことなら、「ル形」
を使います。
「~る前に」「~たあとで」と違い、
「~るとき」と「~たとき」:
「ル形 + とき」と「タ形 + とき」
という二つの形が現れます。
そこで、
「~る前に」(=ル形 + 前に)や
「~たあとで」(=タ形 + あとで)
のように
一塊の表現として、教えることができません。
「~とき」表現では
従属節の動作を
いつ「ル形」にし、
いつ「タ形」にするのかを
理解しなければなりません。
復習として、
ここでも少し見ておきましょう。
(1)パリに行くとき、(成田で)ガイドブックを買った。
・・・・・(従属節) (主節)
主節の動作を基準として
時間の前後関係を考えます。
ガイドブックを買った→それから、パリに行く
従属節の動作「(パリに)行く」は
主節の動作「(成田で)買った」より
あと(=未来)に行われるので、
「ル形」を使います。
(2)パリに行ったとき、(パリで)ガイドをやとった。
・・・・(従属節) (主節)
時間の流れを考えます
パリに行った→それから、(パリで)ガイドをやとった。
従属節の動作は主節より前(=過去)に行われるので、
「タ形」を用います。
さて、ここからが本題です。
同じ「~とき」の表現ですが、
次の場合はどうでしょうか。
同時関係の「~とき」
(例1)日本にいるとき、日本大学で日本語を勉強していた。
これは主節と従属節とが「同時関係」にあります。
どちらが先で、どちらが後、
という時間の前後関係がありません。
「日本にいる時」と
「日本語を勉強している時」とが
重なっている、
つまり同時期に起こっています。
これは
従属節の述語「いる」が
状態性の動詞だからです。
動作動詞ではないため、
時間の前後関係がはっきりしません。
このような場合は
(例1)日本にいる時、日本大学で勉強していた。
(例2)日本にいた時、日本大学で勉強していた。
ル形(いる)を使うことも、
タ形(いた)を使うことも、可能です。
次の例文ではどうでしょうか。
(例3)散歩している時に、友人とバッタリ会った。
この例文でも、
「散歩している最中に」といった意味となり、
同時的な意味関係が強まり、
(例4)散歩していた時に、友人とバッタリ会った。
のように、
「タ形」でも使えます。
「散歩している時」でも
「散歩していた時」でも
意味は変わらず、両方使うことができます。
どうして両方使えるのか、
これはテンスの本質を考えてみるといいと思います。
テンスとは時間の前後関係を表す文法です。
そこで、時間の前後関係のある文に適用されます。
(例1)(例2)(例3)は
文の意味を考えた時、
時間の前後関係がありません。
従属節と主節は、ほぼ同時に起こっています。
そこで
「テンス」の法則が適用されません。
では次の文はどうでしょうか。
(例4)雨が降っている時には 家にいる。
(例5)晴れているときには、出かける。
(例6)疲れている時には、早く寝るようにしている。
この文でも、やはり
従属節と主節との時間的流れが感じられません。
【「~とき」の状態にあるときは、いつも】
といった意味になります。
そこで
(例4’)雨が降った時には、家にいる
(例5’)晴れたときには、出かける
(例6’)疲れた時には、早く寝るようにしている。
上記のように
タ形にもできます。
これらの文は
時間の前後関係を表すのではなく、
条件や因果関係の意味が強く出ているからです。
初級では、最初に
時間の流れのある「~とき」表現を
学びます。
この時には
同時関係や因果関係の意味をを持つ
「~とき」の例文を出さないように
気を付けましょう。
ではではニゴでした。