「隣」と「横」その2
「隣」と「横」その1では
主に「横」について解説しました。
「横」について、詳しく知りたい方は
以下をクリックしてください。
→「隣」と「横」その1
まず、
「隣」と「横」の定義を再度
書いておきます。
「隣」と「横」の定義
「隣」も「横」も
並んでいる、あるものの位置関係を示す言葉です。
つまり、位置詞の仲間です。
「横」とは
・水平方向に並んでいる、
・その線上にあるものです。
・並んでいるものは同種でも異種でもOKです。
「隣」とは
・同じ種類のものが並んでいます。
・最も近くにあるものを指します。
・それは水平方向に並んでいるとは限らず、
・360度の方向が可能です。
ここからは、前回書けなかった
横の補足から始めます。
前回は「縦」「横」を中心に、
平面の「横」について述べました。
次は、立方体の「横」についてです。
立方体の「横」
上のイラストを見てください。
正面は「前」
その裏側の面は「後ろ」
天地方向の天の面が「上」
地の面が「下」
左右の両側面は「横」となります。
例えば、
立体的な人の顔を
思い浮かべてください。
横顔と言います。
また、
「横っ腹が痛い」も使いますし、
船の場合「横腹」と言ったりします。
もう一例挙げます。
下のスマートフォンのイラストを見てください。
ガラスの面の側面、
つまり「横」に
二つ、ボタンが並んでいます。
では次に
「隣」について考えます。
「となり」の意味(辞書から)
隣についてです。
まず、辞書をひいてみます。
(明鏡国語辞典)
となり⇒名詞
①並び続いているもののうち、
・最も近くに接していること。
・また、そのもの。
(例)隣の席に座る
(例)隣の駅で降りる
(例)左隣、右隣
上記のように辞書では
「最も近くに接している」こと。
とあります。
しかしながら、
細かく分析していくと、
「最も近くにある」は
その通りなのですが、
「接していない」としても
「隣」は使えます。
以降を読んでみてください。
「横」のところと同様に、
ここでも
位置詞を考えるうえでのポイントに沿って
見ていきます。
位置詞を分析する際のポイント
(1)基準点と方向性。
(2)・点的か、線的か、面的か。
・・・・接触か、非接触か。
(3)同種か、異種か。
隣の(1)のポイントについて
(1)①基準点
・・・②基準点:方向性あり
・・・③基準点:方向性なし
(1)①基準点
「隣」は
基準となるものの近くに
同じようなものがあります。
その両者の位置関係を
描写する言葉が「隣」です。
ですから、
基準点は必要不可欠です。
(1)②基準点ー方向性あり
方向性のあるものについて見ていきます。
下は電車のイラストです。
方向性があります。
(左方向に進んでいます)
オレンジの車両を基準とすると、
A、Bの車両が「隣」の車両となります。
左方向に進んでいるので、
Aの車両は「前」の車両、
Bの車両は「後ろ」の車両とも言えます。
次は
横書き(つまり方向性があります)
の文字列です。
「く」を基準とします。
隣の文字は
「き」と「け」です。
「う」は上の文字となり、
「す」は下の文字となります。
(1)③基準点ー方向性なし
次の図は
方向性がありません。
上から見た図だと考えてください。
「赤い円」を基準とします。
方向性がありませんから、
周囲の「白い円」は
すべて、
「隣」と考えることができます。
方向性がないので、
上、下、前、後ろ
も使えません。
これは
将棋と碁を例にすると
わかりやすいかもしれません。
碁は盤面に方向性がありません。
そこで、
黒石を基準とすると
白石はすべて「隣」の石となります。
それに比べ、
将棋の駒には、方向性があります。
「金」を基準とすると
緑と青の「歩」は「隣」の駒で、
赤い「歩」は 前の駒、
「王将」は後ろの駒となります。
(2)点的か、面的か
「横」は水平に伸びる、
線的なイメージでしたが、
「隣」はどうでしょうか。
隣の市、隣の町、のように
面のイメージがあります。
(3)接触か、非接触か
市や町は接触していますが、
国の場合はどうでしょうか。
隣の国、といった場合
日本はぐるりと海に囲まれていますから、
隣の国とは
つながっていません。
また、
隣の島、隣の駅、
とも言ったりします。
島と島の間には海がありますし、
駅と駅は
線路ではつながっていますが、
接触しているわけではありません。
こうして考えると
「隣」は
接触していても、
接触していなくても
使えることがわかります。
(3)同種か、異種か。
同種のものを比べるのが「隣」です。
今までの例を見ても、
電車の車両、文字、
碁石、将棋の駒、
国、駅、島
など
すべて同種のものの位置を
問題としています。
隣の補足
隣は
具体的なものを比べるだけでなく、
抽象的な事柄についても用いることがあります。
例えば
「生と死が隣り合わせになっている」
の場合です。
また、
「お隣さん」というと、
●位置的に隣にある家
というよりも、
●お隣に住んでいる人
を表します。
「となりのトトロ」も
(親しみをこめて)
お隣に住んでいるトトロさん
ということです。
以降の文は
上級の学生から出た質問から
さらに「横」と「隣」について
考察したものです。
一緒に考えてみてください。
「隣」は同種同士の位置関係を示す
これまで、
「横」は同種の物でも、異種の物でもOK。
「隣」は同種の物について使う。
のようにまとめてきました。
大方は
これでいいと考えます。
(例1)僕の通っていた中学校の横に鎮守の森があった。
→「中学校」と「森」とは異種
(例2)田中さんの隣にいる美人さんは誰?
→「田中さん」と「美人さん」とは同種
(例3)ほら、花屋さんの隣にお店があるでしょう。
あのお店は魚屋さんで、
とってもおいしいお刺身を売っているのよ。
→「花屋さん」と「魚屋さん」とは同種
上の表題
<「隣」は同種同士の位置関係を示す>
は、本当にそうでしょうか?
上の(例2)(例3)を見ると、
隣は同種の物に使えると言えます。
ところがです。
以下の例文はどうでしょうか・・・
(例1)?:赤ちゃんはお母さんの隣にいる。
(例2)?:案内係の人は大統領の隣にいる。
(例3)?:ミキサーは冷蔵庫の隣にある。
(例1)と(例2)は人同士。
(例3)は家電同士の位置関係です。
少し、違和感がありませんか。
よく考えると、
(例1)(例2)は同じ人間ですが、
同格ではありません。
(例1)のお母さんと赤ちゃんを比べると、
赤ちゃんはまだ、立てませんし、
自立できていません。
(例2)の案内係の人と大統領も
同格ではありません。
(例3)は
同じ家電ですが、
大きさがあまりにも違うので、
同種と認定しくいのでしょう。
(つまり、同格ではありません)
そこで、
・赤ちゃんはお母さんの横にいる。
・案内係の人は大統領の横にいる。
・ミキサーは冷蔵庫の横にある。
のようにすると、おさまりがよくなります。
「Aの横にBがある」
AとBは入れ替え自由か?
学生からの質問はこうです。
(例1)赤ちゃんはお母さんの横にいる。
(例2)お母さんは赤ちゃんの横にいる。
学生曰く
「(例1)と(例2)は同じですか?
私は(例2)は不自然に感じるのですが・・・」
すでに上級の学生とはいえ、
なんと語感のするどいことか!
学生の違和感について
私たちも考えてみましょう。
「お母さん」と「赤ちゃん」の例文より
●次の例文だとわかりやすいのではないでしょうか。
(例1)A子ちゃんの絵は バンクシーの絵の横に飾られている。
(例2)バンクシーの絵は A子ちゃんの絵の横に飾られている。
この例文だと
(例2)に
より違和感を覚えませんか?
●次の例文はどうでしょう。
(例1)ガチャガチャは自動販売機の横に置かれている。
(例2)自動販売機はガチャガチャの横に置かれている。
やはり、(例2)に
不自然さを感じるのではないでしょうか。
最初の例文では
「A子ちゃんの絵」と「バンクシーの絵」が
同格ではないため、違和感を覚えるのです。
2番目の例文では
「ガチャガチャ」と「自動販売機」が
やはり、同格ではない、というか
大きさがあまりにも違うため、
不自然に感じるのでしょう。
結論として
「横」を使うときには
同種だとしても、
「従と思われるものは、
主と思われるものの横」にある、
と言うことができそうです。
何の気なしに使っている
「隣」と「横」
ですが、
奥が深いですね。
「隣」と「横」のその1は
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→「隣」と「横」その1
●「近く」「そば」「わき」について
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ではではニゴでした。