教師の成長とは
<教師の成長とは>
この作品は1976年に、エリザベス・シランス・バラッドが発表した
「テディからの三通の手紙」です。
この作品を読むと、本当の教師とは、教師の役割とは何なのかを、
深く考えさせられます。
どうぞ、目を通してみてください。
そして、もう一度、教師という仕事の素晴らしさを
味わってみてください。
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彼女の名前はミセス・トンプソン。
新年度の最初の日、受け持ちになった小学校5年生の生徒たちを前に、
彼女は一つ嘘をついてしまった。
よくほかの先生もやるように、
子供たち全員を見渡しながらこう言ったのだ。
「先生は、あなたたちのことが大好きよ」と。
でも、それはどう考えても嘘だった。
なぜなら教室の最前列に、テディ・スタッダードという名の小柄な少年が、
だらしない姿勢で座っていたからだ。
去年からテディを見ていたトンプソン先生は気づいていた。
彼が他の生徒たちと仲良く遊べないこと、
汚い服を着ていること、
そしていつも体がにおっていることに・・・・・・。
おまけにテディはなんだか気に障る生徒だった。
太い赤いサインペンで、
テディのテストの採点をすると胸がスカッとした。
解答用紙に大きなバツをつけ、
一番上に大きく「やり直し」と書くのが楽しみだったのだ。
学校から生徒の過去の記録を見るように言われたトンプソン先生は、
テディの記録を最後まで見ずに放っておいた。
でもとうとう彼のファイルを読み始めた途端、驚いてしまった。
テディの一年生のときの担任が、こんな記録を残していたのだ。
「テディはよく笑う、明るい子供だ。
言われたことはきちんとやるし、行儀もよい・・・・・・
そばにいるだけで楽しくなる子供だ」
二年の時の担任は、こんなことを書いていた。
「テディは優秀な生徒だし、クラスメートにも好かれている。
だが、お母さんが不治の病にかかってしまってからは様子がおかしい。
おそらく家庭生活がうまくいっていないのだろう」
「三年の時の担任は、こう書いていた。
「お母さんの死は、テディにとって辛すぎる出来事だった。
彼自身はがんばろうとしているが、
お父さんが息子にあまり関心を示さない。
あの家庭生活を何とかしないと、
じきにテディにも悪影響が出てしまうだろう。」
四年の時の担任は、こう書いていた。
「テディは引きこもってしまい、
学校生活にもほとんど興味を示さない。
友達も少なく、授業中に居眠りをすることもある。」
トンプソン先生は、もう問題の深刻さに気付いていた。
そして自分自身を恥じる気持ちでいっぱいだった。
その年のクリスマスの日、
クラスの生徒たちからプレゼントをもらったときは、
さらにいたたまれない気持ちになった。
プレゼントのほとんどは明るい色の包装紙にくるまれ、
美しいリボンがかかっている。
でも、テディのプレゼントだけは
重苦しい茶色の紙で、不器用に包まれていたのだ。
おそらく、食料雑貨店の袋で何とか形を整えたのだろう。
トンプソン先生は、他の生徒たちの前で
気を遣いながらそのプレゼントを開けた。
案の定、何人かの生徒がくすくす笑いはじめた。
中に入っていたのは、
石がいくつか欠けたラインストーンのブレスレットと
使いかけの香水のビンだったのだ。
だがトンプソン先生はこう言った。
「なんてきれいなブレスレットでしょう!」
すると生徒たちの笑いはおさまった。
さらに先生はブレスレットをはめ、
その手首に香水をそっと押し当てたのだ。
その日テディ・スタッダードは放課後まで残り、
一言こう言った。
「トンプソン先生、今日はぼくのママと同じ匂いがするね。」
その日生徒が帰宅したあと、
トンプソン先生は一時間以上泣き続けた。
そしてまさにその日を境に、
彼女はただ読み書きを教えることをやめ、
子供たちに本当の「教育」を始めたのである。
トンプソン先生は、特にテディに注意を払うようにした。
共に学ぶにつれ、
テディは少しずつ心を取り戻していくようだった。
先生から励まされるほど、
質問にも素早く答えられるようになっていった。
そしてその年度末、
なんとテディはクラスの中でも一番成績のよいグループに
入ることができたのだ。
嘘がとうとう本当になった。
テディもトンプソン先生の
「大好きな生徒」の仲間入りを果たしたのである。
一年後、トンプソン先生は自宅のドアの下に、
一枚のメモが挟みこまれているのに気付いた。
それはテディからのメモだった。
そこにはこう書かれていた。
「先生は、ぼくのこれまでの人生の中で一番すばらしい先生です。
今でも、そのことにかわりはありません」
それから六年後、トンプソン先生は
再びテディからのメモを見つけた。
そこにはこう書かれていた。
「僕はクラス三番の成績で高校を卒業することができました。
先生は、僕のこれまでの人生の中で一番すばらしい先生です。
今でも、そのことにかわりはありません」
さらにそれから四年後、
トンプソン先生はテディから一通の手紙を受け取った。
そこにはこう書かれていた。
「くじけそうなときもありましたが、なんとか
学校に通い続け、首席で大学を卒業することになりました。
先生は、僕のこれまでの人生の中で一番すばらしく、
大好きな先生です。
今でも、そのことにかわりはありません」
そして四年が過ぎ、
トンプソン先生はテディから再び手紙を受け取った。
そこにはこう書かれていた。
「学位取得後、さらに勉強を続けることにしました。
トンプソン先生は、私のこれまでの人生の中で一番すばらしく、
大好きな先生です。
今でも、そのことにかわりはありません」
でも、今回の手紙には大きな変化があった。
テディの名前に、
こんな新しい肩書きがついていたのだ。
「医学博士、セオドア(テディ)・スタッダードより」
物語はまだ終わりではない。
そう、その年の春、先生のもとに
テディから三通目の手紙が届いたのだ。
そこにはこう書かれていた。
「私はある女性と出会い、結婚することになりました。
父も数年前に亡くなってしまったため、
もしできれば先生に私の母親の席に
座っていただきたいのですが」
もちろん、トンプソン先生はこの申し出を受けた。
しかも、あの石がいくつか欠けたブレスレットをはめ、
テディの亡き母親と同じ香水をつけて。
結婚式当日、ふたりは固く抱き合った。
スタッダード博士は、トンプソン先生にこうささやいた。
「先生、僕を信じてくれてありがとう。
自分は大切な存在だ、違いを生み出せる人間なんだと
気づかせてくれて、本当にありがとう」
トンプソン先生は涙を浮かべながら、
こうささやきかえした。
「テディ、そうじゃないわ。
あなたが私に違いを生み出せる人間だと
気づかせてくれたの。
私はあなたに会ったからこそ、
本当の教育の意味を知ることができたのよ」
ではではニゴでした