ティーチャートーク
初級段階のティーチャートークとは
ティーチャートークとは
教師が
学習者に対して用いる話し方です。
教師の発話を
目の前の学習者のレベルに合わせ、
学習者が理解しているかどうかを観察しながら、
話し方をコントロールし、調整します。
つまり、
ティーチャートークとは
「目の前の学習者にとって、
わかりやすい話し方をする」
ということです。
ティーチャートーク
様々な方面からの調整
ティーチャートークで行う
様々な方面からの調整とは
・文型コントロール
・語彙コントロール
・スピードコントロール
を指すことが多いといえます。
岡崎・長坂(1990)の研究では
学習者のために、理解できる話し方にする
「ティーチャートーク」として、
以下の5点を挙げています。
●話すスピードを学習者に合った
適切なものにする。●語彙や構文の難易度を学習者に合った
適切なものにする。●視覚情報を利用する。
●談話上の調整を行う。
●学習者が理解できない
という反応を示した場合に、
適切な対処を行う。
こうしたティーチャートークは
‘授業がうまい‘と言われる教師なら、
多かれ少なかれ、必ず取り入れています。
一昔前(オーディオリンガル全盛期)には
日本語教師を養成する学校や授業において、
文型コントール・語彙コントロール
をするよう、厳しく指導されていたと
聞き及びます。
しかしながら、
コミュニカティブな教え方が広まるにつれ、
教師のティーチャートークの適切性にも
徐々に変化が見られます。
以下は片岡(2000)の
ティーチャートークでの
「適切な話し方」の目標です。
●学習者が意味内容を理解できる。
●学習者の言語習得に有効なレベルである。
●「自然な日本語」である。
●コミュニケーションのための言語である。
特に緑字にした項目が
取り上げられるようになったことは
特筆すべき点だと思います。
上記のようなティーチャートークであるなら、
学習者は安心して学べますね。
ティーチャートークを
学習者の視点で見てみよう
全く学んだことのない言語を
勉強しようとするとき、
もし、教師が
ティーチャートークをしてくれず、
自然なスピードで、語彙で、文型で、
授業が始まってしまったら、
学習者は絶望的な気分に陥ります。
「もう、お手上げだ・・・
全く、わからない・・・・・・」
初級レベルの学習者にとって、
自分でも理解できる言葉で話してくれる
教師の存在は
どれだけ嬉しいものでしょう。
ティーチャートークは
学習者にとって、
特に初級レベルの場合には
絶対に必要です。
次に
・スピードコントロール
・文型コントロール
・語彙コントロール
について、一つ一つ見ていきましょう。
スピードコントロール
日本語力0(ゼロ)の学習者に
日本語のみで教える場合、
教師にとって
最も高いスキルが必要な授業となります。
この時期の授業でも、
スピードコントロールは
さほど気にしなくても大丈夫です。
学習者を観察しながら、
全くわかっていないようなら、
多少ゆっくり目に話します。
しかし、
耳は最も慣れやすい器官です。
スピードがゆっくり過ぎて、
日本語らしくなくなる方が、
弊害が大きいのです。
この時期は
繰り返しと短い言葉(単文で)
を意識すれば
スピードは
教師自身の日ごろの速さでOKです。
わかっていないと感じたら、
「ちょっと、ゆっくり目で繰り返す」
あまり、
学習者の耳を甘やかさない方が、
伸びが早くなります。
そして、たいていの場合
自然なスピードで乗り切れます。
反対に
学習者のレベルが上がっていくと、
教師は話すスピードを上げることもあります。
つまり、
スピードが必要な口頭練習のときには
アップテンポの方が、効果が上がります。
リズムに乗ったアップテンポにした方が、
学習者の集中力も持続しますし、
記憶にも残りやすいのです。
話すスピードは
学習者を観察しながら、
そして、
どんな練習なのかを考えながら、
上げたり、下げたり、
楽しい授業を心がけましょう。
次は文型コントロールについてです。
文型コントロール
以前は
日本語のテキストと言えば、
文型積み上げ式でした。
(代表は『みんなの日本語』でしょう)
こうしたテキストで教える場合、
文型コントロールは
とても重要なスキルとなります。
文型積み上げ式テキストは
各課ごとに
なるべく易から難へと
一つ一つ文型を積み上げて、
日本語を学んでいきます。
つまり、
テキストが作成された時点で、
教える側は
「文型コントロール」をすることが
前提となっています。
「まだ、習っていない文型は使わない」
ということが、大原則です。
しかしながら、
最近では
この課では
「どんなことができるようになるか」
といった「can-do」を意識したテキストも
増えてきています。
また、ゼロ初級では
生活日本語を教える
サバイバル的なテキストもあります。
こうしたテキストを教える時の
文型コントロールは
どうしたらいいのでしょうか。
結論は
「文型コントロールは必要です。」
テキストが
文型積み上げ式ではないからと言って、
教師が
自然な日本語ならいいだろうと、
無自覚に、
様々な文型や語彙を使った日本語を
繰り出してしまったら、
学習者の頭の中は
パニックになってしまうでしょう。
生活日本語を学ぶサバイバル的テキストは
最初から
かなり難しい文型を使います。
だからこそ、
教師の文型コントロールが必要です。
●テキストの中の既習の文型を使う。
●質問や指示を出すときには
毎回決めた、同じ文型と語彙を使う。
のように、
意識的に
文型をコントロールしていきましょう。
特に「文型コントール」
を意識するところとは?
どのテキストでも、
授業中、必ず「文型コントール」を
しなければならないところは?
と聞かれたら、
それはずばり「導入」です。
どんなテキストでも、
今日の学びを導入するときは
必ず学習者のわかる文型を使います。
これは脳科学から見ても、
とても大切な事です。
人の脳は情報(ことば)を
いったん
短期の記憶保管庫に入れ込みます。
しかし、
この短期の記憶保管庫は
残念なことに、
情報を入れることのできる容量が
かなり小さいのです。
新しい言葉や文型を導入すると、
それを入れただけで、
いっぱいいっぱいになってしまいます。
教師の質問や指示、
導入するときの言葉の中に
学習者のわからない情報(ことば)が
入っていたとしたら、
そのぶんだけ
「新たな情報は入らない」
ことを意識しましょう。
この短期の記憶保管庫は
どんな優秀な人でも
容量はとても小さいのです。
(個体差はあまりありません)
つまり、
今日の学びを導入するときは
できるだけ、意識して、
学習者が理解できる語彙と文型を使いましょう。
少し長くなってしまいました。
最後は語彙コントロールについてです。
語彙コントロール
語彙コントロールも
導入時には必ず行います。
しかしながら、
テキストによっては
この文型を導入するには、
まだ未習だけれど、
この語彙があったら、
どれだけわかりやすいだろう、
ということが起こります。
こうした時には
その新出語彙は積極的に導入しましょう。
こうした新出語彙は
今日の授業の前の回で
入れられたら、もっといいですね。
それが難しいのなら、
導入前の復習の時に
その語彙を学習してしまいましょう。
また、語彙は
絵カードさえあれば、
簡単にわかるものもあります。
絵カードですぐ理解できるものなら、
今日の導入時に並行して入れても
大丈夫かもしれません。
(教師が判断すればいいですね)
なぜ、語彙コントロールが必要なのか?
語彙コントロールが必要な時を
教師はしっかり意識しましょう。
新しい文型などを導入する際に、
学習者の全く知らない語彙を使ってしまうと、
人はそのわからない「語彙」の方に
意識が集中してしまいます。
学ばなければならない文型の方が
おろそかになってしまうのです。
やはり、新しい表現を入れる時には
学習者のわからない語彙は
使わない方がいいのです。
ただし、導入時でなければ
話は変わってきます。
学習者に必要な語彙は
テキストになくても
どんどん入れよう
日本で生活するには
知っておいた方がいい語彙が
たくさんあります。
例えば、
災害時に必要な語彙は
学習者の身を守るために、
絶対に必要です。
もしかしたら、
語彙だけでなく、
必要な命令形もありそうです。
例えば、難しい漢字でも、
避難するときに必要なら、
意味がわかるようにしておきましょう。
生活に必要な語彙表を作成してもいいですね。
また、著作権の関係で
いくら有名な店でも、企業でも、
正式な名前が
テキストに載せられない場合もあります。
学生に必要なら、
そうした固有名詞も
どんどん教えたいですね。
語彙は
目の前の学生にどの程度必要なのかを
教師が判断し、
テキストに載っていない言葉でも
教えていきましょう。
日本の友達との付き合いを
大切にしている学生なら、
「今の言葉」が
必要かもしれません。
全ては
学習者をよく理解するところから
始まるのかもしれません。
ではではニゴでした。