「太平洋」と「大西洋」の言葉の由来
太平洋は「太」という漢字を使い、
大西洋は「大」という漢字を使います。
読み方は
同じ「たい」なのに、
違う漢字を使うのはなぜ?なのでしょう?
小学校の地理の授業で、
大西洋と太平洋を学んだとき、
上記のことが、とても不思議でした。
その疑問を先生に尋ねても、
知らないと追い払われ、
今の今まで、
そうした疑問を持ったことさえ、
忘れていました。
ところが、先日
『チコちゃんに叱られる』という
NHKのテレビ番組で、
この疑問をとりあげていました。
「そう、そう! これ、聞きたかったんだ」と
突如として小学校時代の記憶がよみがえり、
もしかしたら、日本語を学ぶ人たちにも
役立つかもしれないと思い、
ここに書いておくことにしました。
どうして太平洋は「太」なのに、
大西洋は「大」の漢字を使うのか?
チコちゃんの答えは
「マゼランが嵐に合わなかったから」
でした。
そんな答えでは「?・・・」となってしまいます。
順序だてて書いていきますね。
解説は
大東文化大学の関根健一氏です。
まずは、大まかな結論から。
「太平洋」「大西洋」の言葉の由来
「太平洋」と「大西洋」は
どちらもヨーロッパでの呼び名が
中国に伝わったものです。
中国では
原名ではわかりにくいため、
ヨーロッパ式の呼称を自国語に翻訳し、
使い始めます。
日本はといえば、
ヨーロッパ式の呼び名が直接
伝わってきたわけではなく、
すでに中国語に翻訳された
「太平洋」「大西洋」
という名称が
中国から入ってきました。
そして、
その名称がそのまま広まった、
という経緯になります。
つまり、
ヨーロッパ→中国(中国語に翻訳)→日本
という流れで、
この名称は使われるようになったのです。
では、ヨーロッパでは
「太平洋」「大西洋」を
何と呼んでいたのかから、見ていきましょう。
「太平洋」「大西洋」の英語名
太平洋は Pacific Ocean
大西洋は Atlantic Ocean
上記が英語名となります。
まずは、
大西洋: Atlantic Ocean
の由来から。
大西洋: Atlantic Oceanの由来
大西洋は英語で「Atlantic Ocean」
(アトランティック・オーシャン)です。
直訳すると「アトラスの海」となります。
アトラスとはギリシャ神話に登場する巨人の神です。
この神様が、
世界の西の果ての海
(つまり、大西洋の部分)
を肩に乗せ、
天空を支えている、
という言い伝えがあります。
なぜアトラスが
地球を担いでいるのか
というと、
彼は
オリンポスの神々に
(無謀にも)
戦いを挑みました。
その結果、やはり
負けてしまいます。
そこで、
ゼウスが
アトラスを懲らしめるために、
戦いを挑んだ代償として
地球を担ぐという罰を与えた、
という神話が伝わっています。
アトラスの担いでいる部分を
「アトラスの海」
つまり
「Atlantic Ocean」と呼ぶことになったのです。
中国は
この名称(アトラスの海=Atlantic Ocean)を採用せず、
Atlantic Ocean(アトランティック・オーシャン)は
中国からみて西側にある大きい海だ、
ということで、
「大西洋」と名付けました。
大西洋は直訳ではなく、
Atlantic Oceanの大きさと中国から見た位置で、
その名前を決めたのです。
ところが、
太平洋の場合は、違っています。
太平洋: Pacific Oceanの由来
太平洋は
英語でPacific Oceanと言います。
直訳すると、
「穏やかな海」という意味になります。
そして、
太平洋の「太」は
天下太平(=天下泰平)の
「太」の字です。
今では、太平ではなく、
泰平を使うことが多いのですが、
「天下太平」は
中国の礼記(らいき)に出てきます。
礼記は儒教に関する書物です。
孔子とその弟子の問答が
記載されています。
礼記の中の『仲尼燕居』という編に
「天下太平」という言葉が載っています。
つまり、
「太平洋」とは
中国語では「穏やかな海」ということで、
Pacific Ocean(パシフィック・オーシャン)
を直訳したものです。
ここで、
一つ疑問がわきませんか?
そもそもヨーロッパでは
どうして
「パシフィック・オーシャン
(=穏やかな海)」と、
命名したのでしょうか?
このパシフィック・オーシャンの
名付け親はなんと日本でも有名な
フェルナンデス・マゼランです。
スペインの探検家で、世界一周をした
あのマゼランです。
1519年、マゼランは
スペイン帝国の艦隊を率い、
世界周航の旅に出発します。
(マゼラン自身は航海半ばの
1521年に、亡くなったそうですが、
部下のスペイン人、
ファン・セバスティアン・エルカーノが
艦隊の指揮を引き継ぎ、
1522年に
史上初の世界一周を成し遂げました。
この世界一周は
スペインから
大西洋(Atlantic Ocean)を南に進んで、
南米大陸の南端にある、
現在のマゼラン海峡と呼ばれる水路を通って、
大平洋に出る、というルートをとりました。
マゼラン一行は
マゼラン海峡を通る際に、
ひどい暴風雨に見舞われ、
九死に一生を得る、
という状況だったそうです。
ところが、
太平洋に入った途端、状況が一変します。
太平洋の航海は、
4か月もの長きに及びましたが、
その間、一度も嵐に遭遇することもなく、
平穏無事に航海が進んだのです。
マゼラン艦隊の航海日誌にも、
「海は太平で、一度も暴風雨に
出会わなかかった」という
記述があるそうです。
こうした体験から、
マゼランはその海を
「穏やかな海」という意味の
「マーレ(=海)・パシフィクム(=穏やかな)」
と命名しました。
中国でも、この意味を採用し、
「穏やかな海」⇒「太平洋」
と訳したのです。
まとめ
ヨーロッパから
Pacific Ocean
Atlantic Ocean
という言葉が中国へ伝わりました。
その言葉を中国では
「太平洋」
「大西洋」と訳します。
中国式の「太平洋」「大西洋」の呼び方が
日本に伝わり、
日本では
明治維新前後に
その呼び名が定着した、
ということです。
「太平洋」「大西洋」といった名前の由来には
壮大な歴史があったのだと、驚かせられました。
いつの日か、
この話を学習者の方々に話せる日が来るでしょうか・・・
まあ、自分としては
小学校の時の疑問が解消でき、
すっきりしたといったところです。
皆さんはいかがでしたか?
ではではニゴでした。